琉球新報5月、2019

2019年06月27日 07:29

天皇制、県民感情に変化 識者指摘、政治利用危惧も

2019年5月1日

平成の時代が終わり、新しい天皇が1日即位した。県内の識者は平成の天皇の沖縄訪問と慰霊によって、県民の天皇制に対する視座の変化を指摘する一方、令和の時代と新天皇の姿勢について注目している。

 沖縄戦で住民が「集団自決」(強制集団死)に追い込まれたチビチリガマ(読谷村)の調査に携わってきた知花昌一さん(71)は、平成の天皇陛下に対して「昭和天皇の子として、制度としての天皇制を引き継いだ責任として、戦争責任を自覚していたと思う。11回も沖縄を訪れ、必ず戦争犠牲者を慰霊しているのは、その責任の現れだったと思っている」と語る。

 ただ、悲惨な沖縄戦を経た戦争被害者には皇室への複雑な感情も残る。令和の天皇に対して「(平成の天皇は)戦争責任を感じ真摯(しんし)に沖縄に向き合ってきたので(皇室に)理解を示す人たちも出てきている。これからの天皇もそういった姿勢を持ち得るのかを沖縄の人たちは見ている」と語った。

 国際政治が専門の我部政明琉球大教授は平成の天皇陛下について「自ら疎開を経験するなど戦時を生き、父である昭和天皇を見続けた。鎮魂のために祈ることの重みを十分に理解し、それを果たすことが責務と思われていたのではないか。戦争体験者や遺族、被災者の元に足を運び、顔をつきあわせる陛下の姿に親しみを抱く国民も多いと思う」と指摘する。

 ただ、政治と天皇の関係には苦言も呈す。「戦争体験者が減り、天皇制に疑問を持たず無関心な世代が中心となる中で、親しみの対象としての天皇の存在が際立つと政治利用が進むのではないか」と危惧した。

「基地のない平和な沖縄を」 5・15平和行進始まる

2019年5月17日

日本に復帰して47年を迎えた沖縄で、平和を訴える「第42回5・15平和行進」(同実行委員会、沖縄平和運動センター主催)が17日、中北部・基地コースと南部・戦跡コースで始まった。
 名護市辺野古の米軍キャンプ・シュワブゲート前で行われた北部コースの出発式では、ヘリ基地反対協議会の安次富浩共同代表が「基地はつくらせないというのが沖縄の民意。共に頑張り抜こう」などと訴え、3日間にわたる行進での団結を誓った。
 参加者は「辺野古新基地建設を止めるぞ」「危険な普天間基地を返還せよ」などとシュプレヒコールを上げながら、一斉にスタートした。

「どうにかしてほしい」市民から悲鳴 普天間飛行場で過去最高の124・5デシベル 人間の聴力の限界に迫る騒音

2019年5月18日

【宜野湾】16日午後6時すぎ、米海兵隊の最新鋭ステルス戦闘機F35B2機が宜野湾市の米軍普天間飛行場に飛来した。飛行場の南側から着陸する際、滑走路の延長線上に位置する上大謝名公民館で午後6時19分、県が騒音測定を開始した1998年以降で最も高い124・5デシベルの騒音が記録された。市民からは「うるさい」などの苦情が市に寄せられた。

 120デシベルはジェットエンジン直近の音に匹敵する騒音で、人間の聴覚の限界に迫るとされる。これまでは昨年12月5日にF35が飛来した時の123・7デシベル(同公民館)が最高値だった。沖縄防衛局は取材に「所属や飛来目的は米軍の運用に関わることで、承知していない」と答えた。

 F35が公民館上空の周辺を飛んだ時、近くに住む上江洲廣吉さん(72)は自宅で夕食の最中だった。地響きのような音で家がガタガタと震え、「うるさかった」と振り返った。最近は航空機騒音規制措置(騒音防止協定)の時間外である午後10時以降の米軍機飛行も相次ぎ、「どうにかしてほしい」と求めた。

<金口木舌>切り捨てられる「端っこ」

2019年5月24日

 「宮古島は何かがあれば切り捨てられる『端っこ』なんだ」。宮古島市で自衛隊配備に反対する「てぃだぬふぁ 島の子の平和な未来をつくる会」の楚南有香子共同代表の言葉だ

▼琉球民族独立総合研究学会のシンポジウムで、楚南さんは1880年に政府が宮古、八重山を清(中国)に割譲する提案をしたことに触れた。先島が実際に分割されることはなかったが、日本が欧米諸国並みの中国内地通商権などを得るための代償にされるところだった
▼楚南さんはその経緯から沖縄戦、現在の自衛隊配備までの流れを挙げて「ミサイルが配備され、標的になれば住民に逃げ場はない。沖縄本島も同じだ」と訴えた
▼沖縄戦を前に配備された日本軍(第32軍)は県民を守るためではなく、米軍を引き留めておく目的で配備された。住民保護の視点は欠落し、地上戦での犠牲者は日米合わせて20万人を超えた
▼防衛省が2012年、石垣島での戦闘を想定して島しょ奪回のため必要となる自衛隊の戦力などを検討していたことが分かっている。沖縄本島への地対艦ミサイル部隊の配備も検討されている
▼楚南さんは「『日本は戦争しないんだよね』と子どもたちに聞かれても、すぐに『そうだよ』と答えられないのがつらい」と語った。子どもたちの未来は切り捨て可能な「端っこ」ではない。県民全体で議論すべき課題だ。

なぜ沖縄に対するフェイク情報、ヘイト言説が流れるのか?ネットの時代に希望はあるのか? 「ファクトチェック」座談会【2】

2019年5月24日

 2018年9月の県知事選で琉球新報は地方紙としては初めてファクトチェック報道を開始し、ネット上を中心に拡散される偽情報や根拠不明の情報など「フェイクニュース」について、事実を検証した記事を掲載した。17日に開かれた座談会には、専門家やネットメディア、全国紙から有識者が集まり、本紙報道への評価や、ファクトチェックの今後の方向性について活発な議論を交わした。出席者らはそれぞれの立場から現実社会に影響を及ぼしているフェイクニュースに対応するメディアの姿勢、選挙報道におけるファクトチェックの意義について考えを語った。(文中敬称略)瀬川至朗氏(早稲田大教授、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」理事長)
古田大輔氏(ネットメディア「BuzzFeeD Japan(バズフィード・ジャパン)」創刊編集長)
倉重篤郎氏(元毎日新聞社政治部長)
滝本匠(琉球新報東京支社報道部長)

進行 島洋子(琉球新報報道本部長)

沖縄以外でデマが発生、拡散


 島 沖縄に対してヘイト的な言説、基地問題に関する誤った言説が流れる。

 古田 米ファクトチェック団体ファースト・ドラフトのクレア・ウォードル氏は「政治的な争点になりがちなものは、ゆがめられた情報が流れがちだ」と指摘している。それがまさに沖縄なんだろうと思う。

 基地問題の議論で政治的争点がある。だからこそ繰り返しゆがめられた情報が流される。ウォードル氏は対抗する手段は同じようにファクトチェックを続けるしかないと言っている。

 差別や、少なくとも沖縄を違った目で見るような目線があるのではないか。そこが操られた情報のデマが沖縄に対して絶えず出続ける理由なのではないかと思う。沖縄に対する誤った情報が流れるときは、沖縄以外のところが発生源になって、沖縄以外のところで拡散している。でもそれは最終的に逆輸入されて沖縄の人たちにまで影響を与え始める。沖縄のメディアだけではなくて(東京在の)われわれも真剣に取り組まなければいけない。

 

 瀬川 沖縄に対するフェイクが増えているのは事実だと思う。嫌中、嫌韓というものと深く結びついているとも思う。日本はフェイクニュースが少ないようにも一見捉えられているが、かなり断定的な情報、偏った情報が根拠無く流れている。ネットの情報を見ると、対象とすべき真偽不明の情報は限りなくあると思っている。

 沖縄の問題は集中してデマが起きてきた場所だ。かつそこで、メディアが日本の中では先駆けて(ファクトチェックに)取り組んでいる現実がある。気付いていないだけで、全国的にも(フェイクニュースは)あると思う。

 倉重 なぜ沖縄でフェイクがあり、ファクトチェックの先進県になったのか。一つ考えると、沖縄県紙の2紙体制があり、国策における安全保障政策に対して、国からすれば協力的ではない、批判的であるということと無縁ではないと思う。政策を遂行していくためには、どうしても民主的なバックグラウンドが必要であって、それを少しでも自分たちの都合の良い方に持ってくるために、選挙が大事となる。

 私の推測であるが、選挙の時にそういうものを使って有利な方に近づけるということを権力としてはしているのではないか。おそらく(フェイクニュースは)東京発のものがほとんどだと思う。資金源などを突き詰めていくことも必要となる。

 瀬川 難しいが、共同でコラボレーションして検証していく手もある。


2万人の記者がネットも監視する


 滝本 まん延しているフェイクニュースが読まれた数と、ファクトチェックの記事が読まれた数を比較すると、圧倒的にフェイクが多い。フェイクの数を上回らないと届かないのかもしれない。ネットの中でどう届けるのか。


 

 古田 特にそれは記者個人だけではなくて、編集局のトップの戦略を立てる人が考えないといけない部分だ。この記事の見出しを読者に届けるために、あらゆる手法を使う。それは自社のウェブサイトもそうだし、ツイッター、フェイスブック、インスタグラムなど多くのプラットフォームを理解して、配信をして、届けるための戦略をきちんと考えないといけない。読者との間に関与を生み出すところまできちんと考えないといけない。「書いたらあとは読め」という感覚がまだまだあると思う。それでは読んでもらえない。
 瀬川 フェイクニュースはリアルニュースより拡散力が強いというのは証明されている。「ポスト真実の時代」と言われる。真実よりも自分が信じているものをシェアするというのは、今はSNSだが、昔は口伝えで広がっていた。ポスト真実は別に今の時代だけではないと認識した方がいい。
 一方でネットの時代は、自分たちが発信者に簡単になれる。曖昧な情報は過去から今までいたるところにあったんだと思う。むしろ今は検証しやすい時代で、さまざまな情報が出てきても「本当か」と調べることができる。それをジャーナリズム、メディアがやっていくということが重要だ。ただし、リアルニュースもフェイクニュースと同じだけ拡散しないといけないのかという問題はまた別だ。

 倉重 インターネット市場の需給関係だと思う。うそと真実と、どちらがより売れるのかというと、過去も今もうその方が面白い。人を傷つけたりしているものもあった。しかし真実の価値も捨てたものではなくて、ネットの時代は、真実もまた早く世界に伝わっていく可能生もあると思う。
 真実の輝きが世の中を変えるかもしれないという楽観的な期待感を持ってこの時代を乗り切っていくしかない。(全国にいる)2万人の記者たちが、ネット社会も監視するという社是を対策としてとって、新聞協会がそこをチェックするようになればまた変わるのではないか。

原発問題 鋭く突く 中村敦夫さん 北谷で朗読劇

2019年5月25日 0

 中村敦夫さんの朗読劇「線量計が鳴る―元・原発技師のモノローグ―」(基地・原発・憲法を考える推進ネットワーク主催)初の沖縄公演が、23日から始まっている。24日は、北谷町のちゃたんニライセンターカナイホールで上演した。原発の仕組みや問題点を解説し、原子力利権に取り込まれた政治家や企業の醜さを、ひょうひょうとした語り口で鋭く突いた。

 「線量計が―」は、福島の原発施設で長年働いていた老人(中村)が、東京電力福島第1原発事故などをきっかけに知った原発の実態を観客に語る2幕4場の劇。舞台は放射線用の線量計が発する甲高い警報音から始まった。中村さんによる東北弁の朗読は、とぼけた調子で笑いを生みながら終幕に向けて熱を帯び、観客を舞台に引き込んだ。
 公演は25日午後6時半から名護市の市民会館中ホールでも開催。問い合わせは同会館(電話)0980(53)5427。

ドローン規制「基地隠す」 那覇 200人集会、改廃要求

2019年5月27日

 米軍基地上空などでの小型無人機(ドローン)の飛行区域を制限する改正ドローン法が成立し、来月13日から施行されるのを受け、ドローンによる基地の監視を続ける市民団体「沖縄ドローンプロジェクト」は26日、那覇市おもろまちの県立博物館・美術館で「ドローン規制法と沖縄の基地」と題した緊急集会を開いた。名護市辺野古沖の新基地建設予定地などでドローンによる監視を続けてきた土木技師の奥間政則さんらが講演し、法案の問題点を指摘。改廃を求める決議を採択したほか、弁護団の結成を呼び掛けた。

 会場には県民ら約200人が集まった。奥間さんは昨年4月からドローンで撮影した辺野古沖の新基地建設現場の写真を示しながら、濁水の流出など工事による環境破壊の実情を訴えた。

 その上で「ドローンによる監視で不正工事の実態が明らかになった。法案の施行を急いだのは、こうした不都合な実態を覆い隠すためだ」と指摘した。

 仲松正人弁護士は、法律に「報道の自由」「国民の知る権利」の保障が明示されていない点などを問題視し「国が法律を恣意(しい)的に運用する恐れもある」と危機感を示した。

 集会では、「報道の自由」「国民の知る権利」を制限しないように法律を改廃するよう防衛省に要請する決議を採択した。「法律施行後にドローンによる監視活動を行えば、逮捕されてしまう恐れもある」(仲松さん)として弁護団の結成も呼び掛けた。

参院選、辺野古新基地中止を共通政策に 野党5党派と市民連合が協定

2019年5月30日

【東京】立憲民主党など野党5党派の党首らは29日、安全保障関連法の廃止を求める「市民連合」のメンバーと会談し、夏の参院選に向けた共通政策として辺野古新基地建設の中止や日米地位協定の改定を盛り込んだ協定を結んだ。野党5党派は同日、全国32の1人区のうち30選挙区で候補者の一本化に合意した。参院選で新基地建設の是非が大きな争点となり得る。

 協定を結んだのは立民のほか、国民民主、共産、社民と、衆院会派「社会保障を立て直す国民会議」の5党派。市民連合と野党が政策協定を結ぶのは2016年の参院選、17年の衆院選に続き3度目だが、辺野古の新基地建設中止を盛り込んだのは16年の参院選以来となる。
 今回の協定では沖縄関連の項目を単独で設け、新基地建設中止と環境の回復、普天間飛行場の早期返還の実現と撤去を求めた。
 日米地位協定の改定に加え「国の補助金を使った沖縄県下の自治体に対する操作、分断を止めること」も新たに盛り込んだ。
 前回参院選時の協定では「沖縄の民意を無視した辺野古新基地建設の中止」との文言が、他の事項とともに羅列されるにとどまっていた。今回は沖縄関連の項目が強調される形となった。
 5党派は政策協定を踏まえて参院選の公約づくりを進める。協定の受け止めは各党に委ねられるため、実際の公約には温度差が生じる可能性もある。
 市民連合運営委員を務める山口二郎法政大教授は、若者たちは今の政策に満足していないが、変化を嫌う気風があるとし「野党は、別の選択肢があるということを人々に訴え、もう一度希望を取り戻すことが必要だ」と訴えた。
 立民の枝野幸男代表は「政策の合意は(参院選に向けた)大きなスタートラインだ」と強調した。