琉球新報1月、2019 ファクトチェック取材班

2019年04月14日 18:05

知事選に偽情報、誰が? 2サイトに同一人物の名前 覆面の発信者㊤ 沖縄フェイクを追う~ネットに潜む闇~(1)

2019年1月1日 12:33 


「沖縄基地問題.com」のサイトの運営者の住所として登録されていた集合住宅の入り口=東京都港区芝

 2018年11月下旬、オフィスビルが立ち並ぶ東京都港区芝。朝夕には会社員らが川のように流れをつくって行き交う。地下鉄の駅から地上に出てすぐの場所にその建物はあった。

 大企業の本社が点在する立地と、周辺のビル群に溶け込んだ外観から集合住宅だと気付く人はどれほどいるだろうか。JRの駅にも近く、列車の音もひっきりなしに聞こえるが、その建物の周辺だけは、なぜか時間が止まったように静かだった。玄関口を入ると、両側にびっしりと並んだ郵便受けが飛び込んできた。10階建てで、住宅部分は独立行政法人が運営するが、すでに取り壊しが決まっている。

 物件情報によると、3階まではテナントとして利用され、4階以上に約400の賃貸住宅があるとされる。だが、壁に掛けられた居住人の名簿には、半分ほどの名しか残っていない。名簿、郵便受けの名前を丹念に見ていったが、目当ての男性の名はなかった。


 虚偽の住所か―。人けのない薄暗いフロアで、しばし立ち尽くした。

 11月初旬に発足した琉球新報ファクトチェック取材班は、18年9月30日投開票の県知事選で、真偽不明の情報や中傷的な情報を流した二つのサイトに注目し、取材を進めていた。 

 「沖縄県知事選挙2018」 「沖縄基地問題.com」

 ネット上に残るサイトの情報を追うと、二つとも1人の男性の氏名で登録されていた。ここでは仮に「M」と呼ぶ。港区芝の集合住宅はMが「沖縄基地問題.com」で住所として記載していた建物だ。

 「沖縄県知事選挙2018」の登録住所は東京都荒川区東尾久のマンションの4階の部屋になっていた。しかし8年前に取り壊され、今は3階建ての別のマンションが立つ。大家にMの名について心当たりがないか訪ねた。しかし「管理会社に任せているから」と答えるだけだった。

 Mが登録していた電話番号に掛けると、一つは女性の声で「違う」と否定された。もう一つの電話番号に掛けると「この番号は現在使われておりません」と機械的なメッセージが返ってきた。

 ただ、古い電話帳をめくると手掛かりがあった。9年前に荒川区東尾久の登録住所で、Mと同じ姓名で電話番号が登録されていた。だが、この番号もすでに使われていなかった。実際に、このMがサイトを運営していたのか、第三者に名前や電話番号を使われたのか、分からないまま、消息は途絶えてしまった。

 迫っても、迫っても届かなかった「覆面の発信者」。目の前の闇が広がっていく気がした。 (ファクトチェック取材班・池田哲平、滝本匠)

告示前に閉鎖 登録者正体追えず


サイト「沖縄県知事選挙2018」で動画がまとめられたページ。現在、見ることができなくなっている 

 二つのサイト「沖縄県知事選挙2018」「沖縄基地問題.com」は8月下旬に突如として立ち上がった。前者は知事選の候補者の日程や主張などをまとめたサイトを標ぼうし、中立を装っていた。しかし、実態は全く違った。

 両サイトで約40本の動画を掲載し、全ての動画は立候補していた玉城デニー氏(現県知事)や、その陣営、故・翁長雄志前知事をおとしめていた。

 「現沖縄与党の正体は反社会的勢力だ!」

 「翁長氏死去。弔い選挙で沖縄を狂わす!」

 見出しには根拠のない情報が並んだ。動画の多くは普天間飛行場や玉城氏、翁長氏の写真を背景に、ゴシック体の文字が流れる様式だ。玉城氏を「違法容認派の危険人物」と記載し「公選法違反」をしているとしていた。基地建設に反対する県民や玉城氏の陣営を「沖縄左翼」を意味するとみられる〝沖サヨ〟と呼び、選挙運動で安室奈美恵さんを政治利用しているとして「バカ丸出し」と切り捨てた。

 動画の中はドローン(小型無人機)を使って、上空から撮影する大がかりなものもあった。この動画を国政与党の国会議員がツイッター(短文投稿サイト)で貼り付けて投稿していた。

 同サイトについて記事にしたネットメディア「バズフィード・ジャパン」によると、拡散している動画は、3千以上リツイート(再投稿)され、再生が5万回を超えているものもあった。サイトが発信源となり、フェイクニュースが、速く、広く拡散された。

 知事選の期間中、1枚のチラシが出回った。サイトの動画と照らし合わせてみると、数カ所で文言が重なり、関連性も疑われた。このチラシは一部の有権者の元にも届いたとみられ、サイトの影響力はネットの世界のみにとどまっていなかった。

 通常、サイトをつくる時に「ドメイン」といわれるインターネット上の住所を登録するのが一般的だ。さらに、ドメインを取得する際には登録した人の氏名や住所、電話番号などの個人情報が公表される。

 だが、このドメインの情報も、代行してもらえる会社に依頼して、見られなくすることができ、サイト運営者の情報は完全に隠すことができる。

 今回の取材で、両方のサイトのドメインから、運営者を追っていったが、両サイトともに氏名、住所、電話番号などの情報を代行会社に頼んでおらず、広く公開していた。〝真の運営者〟は当初から虚偽の登録情報を公開して惑わせ、悪意を持って情報を発信していたのだろうか。

 「普通のまとめサイトは、悪質なものを含めて絶対に広告が掲載されているが、広告がなかった。金銭目的じゃないのは明確だ」。このサイトを調べていたネットメディア「バズフィード」の籏智はたち広太記者はこう断言する。では、目的は何なのか。

 籏智記者はサイトの背後に「政治的な意図があったのではないか」と推測した。

 知事選告示前の9月12日、二つのサイトは突如、姿を消した。動画の閲覧も不能になった。バズフィードの取材がサイトに迫っていた時期と重なっていた。

 そして、閉鎖直前にはサイトの登録者が突然書き換えられた。両方のサイトの登録者指名は「M」から「A」に変わり、住所も「山口県」などに変わった。

 さらに知事選後、虚偽情報や中傷的な情報を流した複数のサイトやツイッター登録者も次々と姿を消した。インターネットの広い空間でうごめく謎の情報発信者。今もどこかで、沖縄フェイクを流すタイミングをうかがっているのかもしれない。 (ファクトチェック取材班・池田哲平)


 インターネットの普及やSNS(会員制交流サイト)利用者の拡大で「情報」は身近なものになった。一方で、情報に紛れたフェイク(偽)やヘイト(憎悪)も大量に拡散され、個人を傷つけ、民主主義を破壊している。覆面で悪意の情報を発信する者は誰なのか。フェイクニュースの発信者を追い、沖縄から、大量に拡散される「情報」への向き合い方を探る。

報道機関に「怪情報」 5日後にはブログ掲載 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈2〉~覆面の発信者㊦

2019年1月3日 

一通の転送メールが本紙記者の元に届いた。沖縄県知事選挙が告示される6日前の2018年9月7日だった。メールの内容は県知事選への立候補を予定していた玉城デニー氏(現沖縄県知事)が過去にある反社会的行動に関わったという内容のものだった。情報の出どころは一切書かれていない。だが、メールには何人もの固有名詞が書かれていた。詳細な記述もあり、事情をよく知っているかのような文面だった。

 ある反社会的行動とは「大麻吸引」だ。メールの冒頭には「玉城デニーの大麻疑惑」と記されていた。35年前に働いていたとされる会社で、大麻を吸っていた社員が複数いたとし、その中の一人が玉城氏だった、と記述している。

 情報を基に琉球新報の知事選取材班は、玉城氏の行為を把握していたとされる「当時の親会社代表」や「当時の社長」として名前が挙げられた2人の人物に取材した。2人とも完全否定し「全部うそだ」「勝手に名前を使われた」と困惑気味に話した。

 玉城氏本人にも取材した。大麻吸引の有無とこの会社の勤務経験があるかを問うと「大麻を吸引したこともないし、この会社で勤務した事実もない」と明確に否定した。

 本紙記者に転送メールを送ったのは、県外の新聞社に勤める記者だった。聞くと、県外の複数のメディアの記者に送りつけられたメールで、回り回って入手したようだ。元の発信先はたどることができなかった。この記者は送られてきたメールを「メール爆弾」と呼んだ。

 メールには情報提供者として「県内経済団体関係者」と記されていた。だが、選挙取材の期間中を含め、現時点でもこの「県内経済団体関係者」が何者なのか、実在するのかも含めて分かっていない。

 告示前には「大麻吸引」の他にも、玉城氏を対象にした根拠不明の言説が飛び交い、本人の元にも届いていた。 玉城氏側は9日、犯罪に関与したかのような書き込みについて被疑者不詳のまま、那覇署に名誉毀損(めいよきそん)の疑いで告訴状を提出した。

 告訴の後も「大麻吸引」に関する言説の流布は途絶えることはなかった。それどころか、多くのサイトやブログに疑惑として取り上げられ、さらにツイッター(短文投稿サイト)でも数多く発信され、大規模に拡散された。玉城氏は9月24日に、ツイッターで「大麻→事実無根」と発信した。選挙期間中だっただけに、たとえ、フェイク(偽)であったとしても影響を無視できなかったようだ。

 「大麻吸引」の言説を最初に発信したネット上の媒体はどれだったのか。琉球新報がネットを調べ、たどりついたのは「2018年沖縄県知事選について考えるブログ。」と題したブログだった。内容は県外新聞社の記者に送られてきたメールの内容とほぼ一緒だった。さらにどこで入手したのか、玉城氏の若い頃の写真も掲載されていた。


 最初に「大麻吸引」の件が掲載されたのは2018年9月12日だ。報道関係者に「大麻疑惑」のメールが出回ったのは9月7日だった。ブログ掲載より5日早い。

 ブログとメールの「覆面の発信者」は同一人物か、それとも別人か、現時点でも判明していない。

 (ファクトチェック取材班・宮城久緒)

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引用重ね拡散 デマ流布 著名人も加担

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 玉城デニー氏(現沖縄県知事)に対する「大麻吸引」のフェイク(偽)記事は「沖縄県知事選について考えるブログ。」が9月12日に初めて発信した。それ以前に取り上げたサイトやブログは確認できなかった。

 そして5日後の9月17日、保守系のサイトが追い掛けるように「玉城デニー候補が過去に大麻疑惑?」という記事を掲載した。この記事がきっかけとなり、ネット上で広く拡散されていくことになった。

 記事では「キナ臭い記事を発見しました」と書き出し、「沖縄県知事選について考えるブログ。」の記述を引用している。さらに翌18日、このサイトの記事を別の保守系の組織が、ブログで引用して取り上げた。

 ツイッターでは告示日前日の12日から16日までは「大麻」疑惑に関する投稿はほぼ確認されていない。ところが保守系サイトが取り上げた17日に23人が一斉に投稿した。翌18日には57人に増えた。さらに翌日の19日には、東京メトロポリタンテレビジョン(東京MX)の番組「ニュース女子」で出演を重ねている評論家がツイッターで発信した。「ニュース女子」は北部訓練場のヘリパッド建設問題で、反対する人々をテロリストに例えて放送し、放送倫理・番組向上機構(BPO)に「重大な放送倫理違反」を指摘された。

 この評論家は、基地建設に反対する人々を敵視しているとみられる人々から、著名人として一定の支持を受けている。評論家がツイッターに投稿したことを受け、即日でツイッター引用や再投稿する登録者が最多の85件も確認できた。

 その後も投稿が繰り返され、拡散が続いた。投開票日前日の29日まで連日、10~60件の投稿が確認できた。複数のサイトやブログでの引用が重なり、最初に発信された言説が大量に増殖し、広く流布されていく様子が見て取れた。


 「沖縄県知事選について考えるブログ。」は現在、閉鎖されており、見ることはできない。

「ネット右翼」に詳しいジャーナリストの安田浩一さんは「扇動的な情報がネットでは勢いを持つ。退屈なものはウケない」と指摘する。その上で「著名人がデマの拡散、流布に加担している。そういう人が加担することでガセ(うそ)も真実に近く見えてしまう」と拡散の構造を説明した。


 ツイッターではサイトやブログの内容を踏まえ「デマと言うなら説明しろ」などと主張し、証拠のない言説に対する説明責任が玉城氏にあるかのように詰め寄る「詭弁(きべん)」とも受け取れる言説が繰り返された。


 ネットでは警察に告訴されることや裁判になることを警戒してか、フェイクと判断できる表現は避ける傾向がみられる。あいまいな表現ではあるが、対象となる特定の人物に対し、疑いを生じさせる内容で発信し、大量に拡散させることで打撃を与えている。そのような卑怯(ひきょう)な手段がツイッターなどSNS(会員制交流サイト)を通じてネットでは横行し始めている。そのきっかけになっているのが「覆面の発信者」だ。

 (ファクトチェック取材班・宮城久緒、安富智希)

「炎上」で閲覧増 ネットギーク、基地抗議を侮辱 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈3〉~収益目的で攻撃❶

2019年1月4日

「バイオハザードより怖い。沖縄基地反対派がフェンスをガンガン揺らす様子」

 「沖縄に集まった基地反対派のプロ左翼、行動がサルと同じだと話題に」

 「その姿は完全に理性を失った野生動物」

 これらは、米軍北部訓練場のヘリパッド建設、名護市辺野古の新基地建設に対する抗議行動について、あるサイトから発信された記事や見出しの一部だ。

 サイトの名は「netgeek(ネットギーク)」。2013年に立ち上がり、攻撃的な表現を含んだ記事を次々と発信し続けている。


 ネットギークが発信した沖縄関係の記事は、確認できるだけで27本存在する。記事は15年4月~18年10月末までの間に投稿された。記事では基地建設に反対する人々の抗議行動を、ゾンビが出てくる海外映画になぞらえ「バイオハザードより怖い」と表現したり、サルなど野生の動物に例えたりして侮辱した。


 北部訓練場のヘリパッド建設が進むさなか、大阪府警から派遣された機動隊員が、基地に反対する人々に「土人」と発言した問題を引き合いに出して「このような話が通じない相手に『土人が』などと言い返しても何ら処罰の対象になるべきではないだろう」とした。県民に向けられた差別的発言を肯定するかのような表現だった。


 このサイトにはいくつもの広告が掲載されている。サイト内の記事の信頼性などには関係なく、インターネットの利用者がサイトを訪れ、ページを閲覧するだけで、運営者に広告収入が入る。関心を呼ぶ記事を発信して閲覧数が増えれば増えるほど、運営者の利益が膨らむ仕組みだ。


 ネットギークのサイト閲覧数をネットで調べたところ、18年9月は300万を超えていた。それ以上閲覧されていた月もあるとみられる。1回の閲覧で得られる運営者の利益はサイトによって異なるが、ネットギークの運営者は月に100万円程度の利益を得ていたとみられている。目を引く扇動的な見出しや過激な内容であるほど、閲覧数が増加する傾向にあり、その結果、運営者はより多くの収入を得られることになる。


 さらに、このサイトはツイッター(短文投稿サイト)やフェイスブックなどSNS(会員制交流サイト)でも情報を発信して、記事を拡散している。


 ネットギークについて追及してきたネットメディア「バズフィード・ジャパン」の古田大輔創刊編集長は、同サイトの情報拡散力に注目する。

 古田氏によると、17年9月17日、(衆院選の)選挙日程を各紙が一斉に報じた日から投開票日までの約1カ月の記事を調べたところ、ネットギークの記事は閲覧されたトップ100のうち15本を占めていた。朝日新聞は11本、産経新聞は9本だった。全国紙の記事より多く見られていた。


 ネットギークの記事は既存メディアよりもネット上ではより高い関心を持たれていることが分かる。閲覧する人が多ければ多いほど、その記事の社会に与える影響は否定できない。

 より攻撃的で炎上を狙った見出しを付け、SNSなどを通して拡散し、サイトの閲覧者数を増やしてきたネットギーク。沖縄もこのサイトの「餌食」となり、偽のニュースが次々と拡散された。沖縄について誤った認識が全国に広まり、基地問題への理解を阻んでいる。

(ファクトチェック取材班・池田哲平、安富智希)

記事拡散 膨らむ利益 報酬は能力で階級分け 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈4〉〜収益目的で攻撃?

琉球新報2019年01月06日

沖縄で基地建設に反対する人々を野生動物に例えるなど、侮辱する記事を発信しているウェブサイト「netgeek(ネットギーク)」。既存のメディアを上回るとも言われる情報の拡散力はどのように生み出されたのか。  ファクトチェック取材班は、ネットギークが記事を編集するために使っている"手引書"を関係先から入手した。「netgeek編集ルール」と題する2分冊の合計25ページの資料で、表紙には「社外秘」と書かれている。ページをめくると、収益を増やすために、攻撃的な内容を含む記事が量産されていく構造が浮かび上がる。  第1分冊の15ページにはフェイスブック(会員制交流サイト)で記事が広く拡散されるにつれ、1本の記事の報酬が上がるという独自の賃金体系が示されていた。  執筆者は「能力」に応じて「アナリスト(分析者)」「アソシエイト(仲間)」「ディレクター(管理者)」という三つの階級に分類されている。記事の報酬額は公開2日後に決まる。その記事が2日間にフェイスブック上でどれだけ共有(シェア)され、どれだけ多くの人々に届いたかが基準となる。  報酬額は「シェア500未満」「500〜」「1000〜」「5000〜」「10000〜」の4段階に分かれている。1万件以上だとアナリストは3千円、アソシエイトは4500円、ディレクターは6700円だ。同じ共有数でも執筆者は階級によって報酬額に2倍の差が生まれている。  そして3階級とも「シェア500未満」だと、報酬額は一律「0円」だ。その理由も記されている。「サイト閲覧者にとってつまらない記事はない方がいい」「フェイスブックは(中略)イイネがもらえないサイトは記事がユーザーに配信されなくなる」ことを挙げる。ネット上で記事が拡散されることを最重要課題に掲げているのだ。執筆者に支払われる報酬はそれほど高いとは言えない。  記事が共有されればされるほどサイトの閲覧者も増加し、運営者がサイト上の広告収入によって得られる利益も膨らむ。記事の執筆者も記事が共有されるほど、報酬は増えるが利益は運営者の方が多く得る形だ。広く共有される記事を書くことで程度の差はあるが、サイトの運営者、執筆者の利益に直結する仕組みとなっている。 

狙いはシェア増/「関心引くタイトル」重視 

 琉球新報のファクトチェック取材班が入手したウェブサイト「netgeek(ネットギーク)」の"手引書"。その「netgeek編集ルール」には文体のルールや編集画面の操作方法に加え、数多く共有されるための技術も書かれていた。重要視していたのは記事の「タイトル」の付け方だ。「編集ルール」には「タイトルが面白いとそれだけでシェアされる」と強調している。  (1)注目されるキーワードを入れる(2)大げさにする(3)「衝撃の結末が」など、ついクリックしたくなる(内容の)隠し方をする―など、タイトルを付けるこつも示されていた。  この編集ルールに沿って実際に書かれた記事やタイトル、フェイスブックの記事説明文には、ネット上での炎上を狙っているとしか思えない表現が散見される。  例えばネットギークが2016年10月に発信した「沖縄のヘリパッド建設に反対している団体の正体、解散したはずのSEALDsと判明」というタイトルの記事がある。  この記事は、米軍北部訓練場のヘリコプター離着陸帯(ヘリパッド)の建設に反対する市民団体が結成された際に書かれていた。記事中には団体に参加した自由と民主主義のための学生緊急行動「SEALDs」(シールズ)のメンバーの写真が並べられ、氏名や大学名なども記されている。  そして、ネットギークがフェイスブックに発信したこの記事に対する書き込みでは「オウム真理教予備軍のお前らの顔と名前は覚えた」などと書かれている。この記事に3689人が「イイネ」のボタンを押し、共有は483件に上っていた。  「SEALDs」の学生を「オウム真理教予備軍」とするのは明らかな虚偽だ。基地建設の抗議行動に対する偏見をあおり、個人情報をネットにさらしている。  その一方で「編集ルール」の末尾には、執筆者に向けて「運営者にかかわる情報は一切漏らさないこと」と記している。収益のために他者を攻撃しつつ、自らの正体を必死で隠そうとするネットギークの実態が浮かび上がる。  (ファクトチェック取材班・池田哲平)

姿現さぬサイト運営者 中傷記事、自ら多数執筆か 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈5〉~収益目的で攻撃❸

 2018年11月下旬、東京都渋谷駅から、にぎやかな通りを抜け、路地に入ったところに目指すマンションはあった。階段を上り、3階にある一室を訪ねた。表札もない、無機質な薄い桃色のドアに向かい合った。この部屋はウェブサイト「netgeek(ネットギーク)」が情報を発信する拠点の一つだった。ドアの前でしばらく待ったが、部屋の中に人がいる気配はなかった。

 ネットギークは沖縄県で新たな基地建設に反対する人々や抗議行動などを揶揄(やゆ)したり、中傷したりする記事の掲載を繰り返しているサイトだ。

 サイト上では運営者の情報について「netgeek編集部」とだけ記載し、所在地や運営責任者名などは明かしていない。

 サイト運営者が、関係者向けに出した資料「netgeek編集ルール」でも「運営者にかかわる情報は一切漏らさないこと」という約束事項が示されており、拠点の所在地を含め、運営者の情報は徹底的に隠している。

 琉球新報ファクトチェック取材班は複数の関係者からの情報を基に、運営者の氏名、携帯電話番号、メールアドレス、拠点の住所を把握した。運営者に直接会って発信の意図などを取材するためだ。

 拠点を訪ねたが、運営者は不在だったため、運営者のメールアドレスに氏名と連絡先を記し、メールを送信した。しかし、現時点で返信はない。

 運営者の携帯にも何度か電話を掛けた。しかし、一度も相手が電話に出ることはなかった。当初は呼び出し音が鳴っていたが、昨年の12月中旬以降は「お掛けになった番号をお呼びしましたが、お出になりません」というメッセージに変わっていた。

 関係者の話を総合すると運営者は30代男性とみられる。そして、本人も「腹BLACK」という署名で多くの記事を書いている。

 ネットギークが掲載した沖縄に関する記事は確認できるだけで27本。そのうち25本の記事に「腹BLACK」の署名が入っていた。基地建設反対の抗議行動を「サルと同じ」と例えたり、フェイク(偽)の言説を含んでいたりする記事は、全てこの署名で発信されていた。


個人の権利 侵害 運営者、無断画像使用も


 沖縄県で新基地建設に反対する人々を中傷する記事などを拡散している「netgeek(ネットギーク)」は、運営者の情報について徹底した秘密主義を貫いている。

 ネットメディア「バズフィード・ジャパン」はネットギークの運営情報に迫る取材を重ね、いくつもの記事を掲載している。取材に対し、ネットギーク側は運営者情報を明かさない理由について「何かやましいことがあるからというわけではなく、スタッフの身の安全を守るため」と説明している。

 しかし「スタッフの身の安全を守る」としながら、ネットギークはこれまでSNS(会員制交流サイト)などで「標的」を見つけると、個人攻撃を続けてきた。その個人攻撃を含んだ記事を拡散させ、収益を増やすために利用してきた側面がある。

 さらに著作権も侵害している。ネットギークで記事にされ、ネット上で中傷を受けた被害者の一人は、取材に対して「突然、無断で自分がツイッター(短文投稿サイト)で発信した画像を使われた。何の連絡も受けていないし、抗議しようにも、どこに連絡していいのかも分からなかった」と語った。

 2018年11月以降、ネットギークに対して集団訴訟を提起する動きも起きている。この動きに対応するためなのか、「腹BLACK」の署名で同年11月19日、1本の記事が掲載された。

 「『netgeekに画像使われてAmazonギフト券GETキャンペーン』を検討しております」

 記事は過去にさかのぼり、ネットギークに写真を使われた人が申請すると、数百円のギフト券が贈られるという内容だ。この「キャンペーン」については「権利者様の権利を保障したい」などとうたっている。裏を返せば、これまで個人の権利を無視して画像を無断使用していたことを自ら認めた形だ。この記事は現在、削除され見ることができなくなっている。


 サイトの説明文で「日本初のバイラル(感染的な)メディア」と自称している。「バイラル」とはSNSで拡散させることを意味する。しかし、運営の在り方をみると、SNSで拡散する目的はニュースの発信よりも、収益目的で収拾が付かなくなるほど批判や非難が殺到する「炎上」をさせることにあるように映る。

 自らの安全を守るために顔を隠しつつ、通告なしに個人の権利を侵害する。そして、権利侵害や個人攻撃を含んだ記事によって収益を得てきた。「メディア」という看板とは遠く離れた場所にネットギークは存在していた。

 (ファクトチェック取材班・池田哲平)


元執筆者、報復恐れ 「運営者情報ばらすな」 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈6〉~収益目的で攻撃❹

「何かあったら、守ってくださいよ」。2018年11月下旬、関東地方の駅前にある商業施設の飲食店。記者と向かい合った男性は不安げな表情を浮かべて口を開いた。

 この男性は、沖縄の基地建設に反対する人々を中傷するなどした記事を発信していたウェブサイト「netgeek(ネットギーク)」で、ライター(執筆者)として記事を書いた経験がある。取材に応じて内実を明らかにしたことが、ネットギークに知られてしまうことを恐れていた。

 男性は数年前、業務委託契約のライターとしてネットギークで記事を書いていた。沖縄関係の記事は書いたことがない。ネット上で話題となっていることについてまとめていたという。

 男性がライターとなったのはサイトにある「採用情報」の欄を見たことがきっかけだ。採用情報にはこうある。「ネタ探しから記事執筆までマニュアルに従って作業して頂きます」。待遇は「時給換算で高めになるよう設定しております」としていた。

 「多くの人が見ているサイトで記事を書けるのはすごい」。アルバイトの感覚で応募したという。サイトから申し込むと、メールで履歴書のフォームが送られてきた。この履歴書に必要事項を書いて送信すると、すぐに電話が掛かってきた。

 「編集部です」。若い男性の声が聞こえてきた。そのまま電話による面接が始まった。

 面接で特段、変わったことを聞かれた覚えはなく、その場で「採用」された。編集部の男性は「運営者の情報をばらさないように」ときつい口調で言い渡して、電話を切った。

 ネットギークの記事のノルマは1日2本。電話面接した男性は「編集長」だった。ネット回線を使った通信アプリ「スカイプ」で「書き方」の講習を受けた後、記事を書き始めた。その後の編集長とのやりとりも、スカイプで連絡を取り合った。

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執筆報酬 抑える 退職申し出に賠償請求


 基地建設に反対する人々らを中傷する記事などを拡散している「netgeek(ネットギーク)」の編集長は、ライターの男性に対して「慣れれば一つの記事は30分ぐらいで書けるよ」と話し、記事の添削や画像の選び方などについても細かく指示を出した。

 「文章はいい感じです。この調子で頑張りましょう」

 「タイトルは見た人が興味をもってクリックするように」

 「画像が面白いと、それだけで『いいね』がもらえる」

 指導は丁寧で1本の記事に何度もやりとりした。だが、ネットなどで話題になった出来事をSNS(会員制交流サイト)でいかに拡散できるかに重点が置かれていた。「スカイプ」にはテレビ電話の機能もあるが、やりとりは音声通話とメッセージだけだった。編集長と一度も顔を合わせたことはなかった。

 琉球新報が入手した「netgeek編集ルール」によると、フェイスブックでの共有(シェア)の数が500未満だと、ライターの報酬は0円と記されている。

 ネットギーク運営者は、外部ライターによる記事でサイトの閲覧者数を増やし、広告収入を得ていた。その額は月に百万円ほどに上るとみられている。ネットギークが運営しているフェイスブックページで確認すると、共有500を満たない記事がほとんどだ。運営者が外部のライターに支払う報酬は低く抑えられていたとみられる。

 男性は「時間をかけて記事を書いてもほとんど稼げなかった。別で働いた方がいいと思った」と振り返る。男性が短期間で退職を申し出ると、すぐに男性の元へ1通のメールが届いた。差出人はネットギークの運営会社だった。

 「契約上の職務を全うせず一方的に契約破棄した件について、損害賠償の支払いを請求します」

 メールは男性が「一方的に契約破棄した」として、5万円の損害賠償を求める内容だった。メールには支払期日と、口座番号などが記され、振り込みがない場合「訴訟を起こします」としている。

 男性は求めに応じず、金銭を支払っていない。その後、連絡はないという。男性は「ネットギークのやり方を見ていると、徹底的に仕返しをしようとしてくる。今でも危害を加えられるのではないかと怖い」と語った。

 (ファクトチェック取材班・池田哲平)


知らぬ人から「死ね知らぬ人から「死ね」 記事にされ標的、提訴へ 「沖縄フェイクを追う ネットに潜む影」〈7〉~収益目的で攻撃❺

2019年1月10日2019年1月10日

「殺す」

 「死ね」

 知らない人からの「殺害予告」がツイッター(短文投稿サイト)上で続々と書き込まれた。直接送られてきたメッセージには死体の写真が添付され「お前の未来だ」とも書かれていた。

 関西地方に住む30代の女性はウェブサイト「netgeek(ネットギーク)」で記事にされた後、ネット上で激しく中傷された。被害はネットの世界だけにとどまらなかった。

 新たに働こうとしている職場に報道機関名を名乗らない「取材」の電話があった。「そちらで働こうとしている人について、どう思うのか」。中傷のもととなった出来事を引き合いに出した嫌がらせの電話だった。電話に応対した人が報道機関名を尋ねたが答えなかったという。サイトで発信された1本の記事によって、平穏な生活は音を立てて崩れた。

 女性が記事にされたのは、飲食店で起きた出来事をツイッターで投稿したことが発端だ。発信した内容については賛否両論あり、当初は両方の意見が書き込まれていたという。

 女性の書き込みから約1週間後、ネットギークがこのことを記事にした。記事の中で、女性がツイッターで過去に発信した投稿から本人の写真が無断で掲載され、現政権に批判的な発言や行動について揶揄(やゆ)された。その直後、ツイッター上の書き込みは罵詈(ばり)雑言や中傷的な内容であふれた。

 女性は「人に言えないようなことをしているつもりは全くない。ネットギークに苦情を言おうとしても、サイトの連絡先もなく、どこにものを申していいのか分からなかった」と語る。

 女性が記事にされて随分たったが、現在も中傷は続いている。

 ネットギークは、県内で基地建設に反対する人々を中傷し、揶揄する記事を量産してきたサイトだ。このサイトは個人も「標的」としていた。SNS(会員制交流サイト)などで探し出した個人に攻撃的な記事を書くことによって、サイトの閲覧者数を増やしてきた面もある。

 東京都内に住む40代の男性もネットギークの記事で中傷を受けた被害者だ。この男性は事実と異なる情報とともに、顔写真と本名を記事でさらされた。「載ったと知ったときは冷や汗が出た」と男性は両手を握りしめながら振り返る。

 接客業をしており、事実ではない苦情が働いている店舗に寄せられたこともあった。人が集まる場所に行くと「中に記事を読んだ人がいるのではないか」と恐怖を感じた。知らない人から中傷するメールが届いたこともあった。

 男性は「からかいがいのある人をさらして攻撃している。(サイトの)読者は自分より弱い人で憂さ晴らしをしている。彼らは誰かを攻撃することで、自分が強者だと確認しているのではないか」と話す。

 ネットギークに対し、名誉毀損(きそん)で訴訟を提起する動きが出ている。原告らは2月にも記者会見を開いた上で、このサイトを訴える予定だ。

 訴訟の中心となっている男性は、取材に対して「ツイッターで『獲物』を見つけると、その人の過去の投稿やフェイスブックをあさる。そして、その中のいくつかをつないで、意図的に『非常識な人』『左翼活動家』という具合にでっち上げる。実際には活動家でもなんでもなく、(ネットギークの記事は)悪意に満ちたデマだ」と指摘する。

 姿を隠して攻撃的な記事を発信し、収益を得てきたサイト「ネットギーク」の運営者。その姿勢は法廷で問われることになる。

(ファクトチェック取材班・池田哲平、安富智希)

人傷つける意識 薄める 2019年1月12日 

匿名掲示板から運営者が意図的に選んだ短文を並べ記事をつくる「まとめサイト」。差別や中傷を楽しむ様子が垣間見える

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 被害者の傷をえぐるような攻撃的な内容の数々。悪意と中傷に満ちた記事は「現実でも暴力や嫌がらせを受けるのではないか」という不安や恐怖を被害者に植え付ける。ネット上の匿名掲示板に投稿される複数の文章を運営者が恣意(しい)的に集める「まとめサイト」。緑ヶ丘保育園に米軍ヘリの部品が落下した事故後、「まとめサイト」からは園の中傷記事が次々と拡散された。

 ファクトチェック取材班が緑ヶ丘保育園を訪ね、「まとめサイト」を園児らの保護者に見てもらうと、保護者は身をすくめた。「すごく怖かった。震えるくらい。子どもや保護者が何か被害に遭うのではないかと思った」。城間望さん(38)は声を震わせた。部品落下は園関係者がつくった虚構という前提で「自作自演だ」と断定し、園を中傷する短文が20本以上も並ぶ。似たような内容でも圧倒的分量で繰り返されることで、受ける恐怖は何倍にもふくれ上がる。

 匿名掲示板の特徴は素性を隠した状態で気軽に投稿できるところにもある。「あれあれ~w もしかして自演なの?w」。投稿された短文は、末尾に笑うことを意味する「w」や「(笑)」という記号を付け被害者を「ネタ」にあざ笑う。「まとめサイト」では中傷したり、侮辱したりする投稿が集められる。

 差別の問題に詳しいジャーナリストの安田浩一さんは「『笑い』は差別のキーワードだ」と指摘する。笑いながらピースサインをして「朝鮮人を殺せ」などと街宣で叫ぶ人たちも見てきた。「笑い合う空間をつくることが過激なことを許容させている」と話すのは、大阪大学大学院准教授(コミュニケーション論)の辻大介さんだ。被害者を「ネタ」に笑うことで、人を傷つけている自覚は薄まる。

 さらに悪質なのは被害者がまじめに反論しても「どうして本気になっちゃっているの」などとかわされることだ。辻さんは「差別や中傷に対抗することが難しい空間が生まれてしまう」と話す。少数者を差別する街宣での行動についても「ネットの匿名掲示板的な空間が現実に出てきた感じがする」と警鐘を鳴らした。

 「まとめサイト」は街角でよく聞く悪口や居酒屋談義を集めた内容に過ぎないと無視していいのだろうか。

 ネットメディア「バズフィード」創刊編集長の古田大輔さんが説明する。都内の大学の授業で気になるニュースを持ち寄り、議論をするという課題が出た。その時、ニュースとして「まとめサイト」の記事を印刷してきた学生がいたという。古田さんは「その学生にとってはまとめサイトも朝日新聞もNHKも一緒で、ニュース記事だと思っている」と指摘する。影響力は否定できない。

 「まとめサイト」が攻撃し、嘲笑の対象にするのは沖縄だけではない。在日朝鮮人などのマイノリティーにも矛先は向かう。

 昨年12月11日付で最高裁が下したある判断が話題になった。「まとめサイト」から人種差別、女性差別などを受け、精神的苦痛を被ったなどとして大阪府在住の在日朝鮮人の女性が起こした裁判だ。大阪地裁と大阪高裁がサイト運営者に損害賠償200万円の支払いを命じる判決を下した。さらにサイト運営者の上告を最高裁が退けた。「まとめサイト」の法的責任が初めて認められた判決だった。  (ファクトチェック取材班・安富智希)


「笑い」ヘイト助長 人傷つける意識薄める 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈9〉~まとめサイト❷

2019年1月12日

被害者の傷をえぐるような攻撃的な内容の数々。悪意と中傷に満ちた記事は「現実でも暴力や嫌がらせを受けるのではないか」という不安や恐怖を被害者に植え付ける。ネット上の匿名掲示板に投稿される複数の文章を運営者が恣意(しい)的に集める「まとめサイト」。緑ヶ丘保育園に米軍ヘリの部品が落下した事故後、「まとめサイト」からは園の中傷記事が次々と拡散された。

 ファクトチェック取材班が緑ヶ丘保育園を訪ね、「まとめサイト」を園児らの保護者に見てもらうと、保護者は身をすくめた。「すごく怖かった。震えるくらい。子どもや保護者が何か被害に遭うのではないかと思った」。城間望さん(38)は声を震わせた。部品落下は園関係者がつくった虚構という前提で「自作自演だ」と断定し、園を中傷する短文が20本以上も並ぶ。似たような内容でも圧倒的分量で繰り返されることで、受ける恐怖は何倍にもふくれ上がる。


 匿名掲示板の特徴は素性を隠した状態で気軽に投稿できるところにもある。「あれあれ~w もしかして自演なの?w」。投稿された短文は、末尾に笑うことを意味する「w」や「(笑)」という記号を付け被害者を「ネタ」にあざ笑う。「まとめサイト」では中傷したり、侮辱したりする投稿が集められる。


 差別の問題に詳しいジャーナリストの安田浩一さんは「『笑い』は差別のキーワードだ」と指摘する。笑いながらピースサインをして「朝鮮人を殺せ」などと街宣で叫ぶ人たちも見てきた。「笑い合う空間をつくることが過激なことを許容させている」と話すのは、大阪大学大学院准教授(コミュニケーション論)の辻大介さんだ。被害者を「ネタ」に笑うことで、人を傷つけている自覚は薄まる。

 さらに悪質なのは被害者がまじめに反論しても「どうして本気になっちゃっているの」などとかわされることだ。辻さんは「差別や中傷に対抗することが難しい空間が生まれてしまう」と話す。少数者を差別する街宣での行動についても「ネットの匿名掲示板的な空間が現実に出てきた感じがする」と警鐘を鳴らした。

 「まとめサイト」は街角でよく聞く悪口や居酒屋談義を集めた内容に過ぎないと無視していいのだろうか。

 ネットメディア「バズフィード」創刊編集長の古田大輔さんが説明する。都内の大学の授業で気になるニュースを持ち寄り、議論をするという課題が出た。その時、ニュースとして「まとめサイト」の記事を印刷してきた学生がいたという。古田さんは「その学生にとってはまとめサイトも朝日新聞もNHKも一緒で、ニュース記事だと思っている」と指摘する。影響力は否定できない。

 「まとめサイト」が攻撃し、嘲笑の対象にするのは沖縄だけではない。在日朝鮮人などのマイノリティーにも矛先は向かう。

 昨年12月11日付で最高裁が下したある判断が話題になった。「まとめサイト」から人種差別、女性差別などを受け、精神的苦痛を被ったなどとして大阪府在住の在日朝鮮人の女性が起こした裁判だ。大阪地裁と大阪高裁がサイト運営者に損害賠償200万円の支払いを命じる判決を下した。さらにサイト運営者の上告を最高裁が退けた。「まとめサイト」の法的責任が初めて認められた判決だった。

 (ファクトチェック取材班・安富智希)

責任問われる差別記事 裁かれた「保守速報」 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈10〉~まとめサイト❸2019年1月13日

インターネット上の匿名掲示板に投稿される複数の短文を運営者が恣意(しい)的に集めて、記事をつくる「まとめサイト」と裁判で争ったのは、フリーライターで在日朝鮮人女性の李信恵(りしね)さん(47)だ。李さんは差別や名誉を毀損(きそん)する記事で精神的苦痛を受けたとして、まとめサイト「保守速報」の運営者を大阪地裁に訴えた。

 保守速報は記事で李さんを「気違い女」「バカ左翼朝鮮人」「ゴキブリ朝鮮人」「日本から出て行け」など読むに堪えない言葉で攻撃していた。

 保守速報は大手のまとめサイトとして知られる。李さんが訴訟を準備していた2014年当時、保守速報の閲覧数は1年で延べ4億人、1日当たり75万人が読んでいた。19年1月11日現在、ツイッター(短文投稿サイト)のフォロワー(読者)の数も6万人に及ぶ。

 保守速報はネットの匿名掲示板の投稿を保守的な政治思想に基づきまとめ、中国や韓国、在日朝鮮人、沖縄の基地問題などを取り上げ差別的な表現で中傷する記事を多く発信している。

 14年の衆議院解散の話題で民主党を揶揄(やゆ)した保守速報の記事を安倍晋三首相が自身のフェイスブック(会員制交流サイト)でシェア(共有)したことでも物議を醸した。現在、首相のフェイスブックからこの記事は削除されている。

 取材班が8日調べたところ、緑ヶ丘保育園の事故に関する記事は7本確認されたが、12日現在は3本に減っている。

 取材班はサイトのメール欄から運営者に対し記事の作成意図などについて問い合わせたが返信はない。サイトの「ドメイン」(ネット上の住所)情報を調べるも大阪府の代行業者に行き着き、運営者自身の居住先を含めそれ以上、探ることはできない。取材班は裁判で運営者の弁護を務めた弁護士を通し、運営者の取材を依頼したが拒否された。

 12月上旬、取材班はコリアンタウンがある大阪市の鶴橋駅で李さんと待ち合わせ、喫茶店で話を聞いた。

 「2013年ごろから私を攻撃する記事が増えた」と李さんは語り始めた。「標的」になるきっかけは、コリアンタウンがある東京都新大久保の街頭で「殺せ、朝鮮人」と叫ぶヘイト(差別)運動に対して、批判する記事をネットメディアで書いたことだった。

 保守速報が李さんの記事を発信するたびに、李さんの元には膨大な数の差別的な言葉や不快な画像、みだらな画像が送られるようになった。「1日5000、多いときは2万件届いたこともある」。淡々とした口調だが表情はこわばっているのが分かる。恐怖とストレスで李さんは不眠や吐き気に襲われ、突発性難聴などを発症した。

 「夜に一人で歩くのも怖くなった。悔しいし、腹が立つし、悲しいけど、その姿を見せると『効果があった』と相手を喜ばせてしまう」。気丈に振る舞う姿が、傷の深さをうかがわせた。

 (ファクトチェック取材班・安富智希)

差別サイト広告消失 企業の取り下げ広がる 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈11〉~まとめサイト❺

2019年1月15日

有料広告が次々と消えた現状を報告する保守速報の「お知らせ」とサイトで販売を始めたしおり購入の協力を求める「お知らせ」

インターネット上の匿名掲示板などから投稿を集め、差別をあおる記事をネット上で拡散していたまとめサイト「保守速報」から企業のホームページなどに誘導する有料広告(バナー広告)が次々と消えた。2018年6月ごろからで、保守速報から攻撃を受けていた李(り)信恵(しね)さん(47)が訴えた裁判の大阪高裁判決を目前に控えていた。

 まとめサイトなどで収入を得ている運営者は、サイトの閲覧数などに応じて広告収入が入る仕組みを導入している。読者の関心が高い記事を投稿し、閲覧数が増加すれば収入も増える。

 昨年春までは多くの企業広告が掲載されていた保守速報には現在、有料広告がほとんど見当たらない。次々と広告企業が撤退したためだ。きっかけは一つのメール発信だった。保守速報の記事内容に疑問を感じた人が昨年6月、広告主の企業に「差別をあおるサイトに広告を載せていいのか」との趣旨のメールを送ったのだ。送り先は大企業だった。

 ネット広告の掲載までには広告主と掲載サイトの間に複数の企業が関わり、広告主が広告の掲載先を把握できていないことがある。メールを受けた企業はすぐに広告を取り下げた。この件がネットで広まると、同様な通報を広告主の企業などに行う動きが広がった。

 差別をあおるサイトへの広告業界の対応も始まっている。取材班はネット広告に関わる企業271社が加盟する日本インタラクティブ広告協会(JIAA)に対し、差別をあおるサイトへの広告掲載への見解を尋ねた。JIAAは「個別の見解を申し上げることは難しい」とした上で、「ヘイトスピーチなどの差別や人権侵害をしているサイト等は広告掲載先として不適切」との見解を示した。JIAAは加盟社にこうしたサイトに広告を掲載しないよう努めるべきだとする声明を17年12月に出している。声明に準じた指針を今春までに策定・公表する考えだ。

 有料広告が消え収入源を失った保守速報は18年7月、サイトに「広告がない状態で運営しております。このままだと存続が危うい状態です」とした記事を掲載した。その後、保守速報を支援する動きを受け、同年9月からサイト上でしおりを販売し、その収益でサイトの運営を続けている。

 李さんが保守速報を訴えた裁判は最高裁まで争われた。裁判所はネット上の匿名掲示板から攻撃する短文を抜き出し記事をつくった保守速報の法的責任を認め、損害賠償200万円の支払いを命じた。李さんの勝訴が確定した。

 ジャーナリストの津田大介さんは判決を「大きな節目になる」と評価し、「この判例を利用して、悪質なサイトに対して被害を受けている側が訴訟を起こす。悪質なサイトに掲載された広告主に問い合わせる。この2点を地道にやることが重要だ」と指摘した。

差別サイト 広告消失 企業の取り下げ広がる 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈12〉〜まとめサイト?01月15日

 インターネット上の匿名掲示板などから投稿を集め、差別をあおる記事をネット上で拡散していたまとめサイト「保守速報」から企業のホームページなどに誘導する有料広告(バナー広告)が次々と消えた。2018年6月ごろからで、保守速報から攻撃を受けていた李信恵(りしね)さん(47)が訴えた裁判の大阪高裁判決を目前に控えていた。

まとめサイトなどで収入を得ている運営者は、サイトの閲覧数などに応じて広告収入が入る仕組みを導入している。読者の関心が高い記事を投稿し、閲覧数が増加すれば収入も増える。


 昨年春までは多くの企業広告が掲載されていた保守速報には現在、有料広告がほとんど見当たらない。次々と広告企業が撤退したためだ。きっかけは一つのメール発信だった。保守速報の記事内容に疑問を感じた人が昨年6月、広告主の企業に「差別をあおるサイトに広告を載せていいのか」との趣旨のメールを送ったのだ。送り先は大企業だった。

 ネット広告の掲載までには広告主と掲載サイトの間に複数の企業が関わり、広告主が広告の掲載先を把握できていないことがある。メールを受けた企業はすぐに広告を取り下げた。この件がネットで広まると、同様な通報を広告主の企業などに行う動きが広がった。

 差別をあおるサイトへの広告業界の対応も始まっている。取材班はネット広告に関わる企業271社が加盟する日本インタラクティブ広告協会(JIAA)に対し、差別をあおるサイトへの広告掲載への見解を尋ねた。JIAAは「個別の見解を申し上げることは難しい」とした上で、「ヘイトスピーチなどの差別や人権侵害をしているサイト等は広告掲載先として不適切」との見解を示した。JIAAは加盟社にこうしたサイトに広告を掲載しないよう努めるべきだとする声明を17年12月に出している。声明に準じた指針を今春までに策定・公表する考えだ。

 有料広告が消え収入源を失った保守速報は18年7月、サイトに「広告がない状態で運営しております。このままだと存続が危うい状態です」とした記事を掲載した。その後、保守速報を支援する動きを受け、同年9月からサイト上でしおりを販売し、その収益でサイトの運営を続けている。

 李さんが保守速報を訴えた裁判は最高裁まで争われた。裁判所はネット上の匿名掲示板から攻撃する短文を抜き出し記事をつくった保守速報の法的責任を認め、損害賠償200万円の支払いを命じた。李さんの勝訴が確定した。

 ジャーナリストの津田大介さんは判決を「大きな節目になる」と評価し、「この判例を利用して、悪質なサイトに対して被害を受けている側が訴訟を起こす。悪質なサイトに掲載された広告主に問い合わせる。この2点を地道にやることが重要だ」と指摘した。

 (ファクトチェック取材班・安富智希)

琉球新報知事選ファクトチェックに新聞労連ジャーナリズム大賞 2019年1月16日 15

日本新聞労働組合連合(南彰委員長)は16日、第23回新聞労連ジャーナリズム大賞に、琉球新報沖縄県知事選取材班の「沖縄県知事選に関する情報のファクトチェック報道」を選んだと発表した。

 琉球新報の大賞受賞は、2015年の「普天間・辺野古問題」キャンペーン報道での受賞以来、6回目。

 選考評は「有権者の判断がゆがめられないような環境をつくるための紙面を展開した」と指摘した。その上で「選挙戦の後も、根拠なき情報がSNS(会員制交流サイト)などを通じて瞬時に広がる現代社会の実態を明るみに出す企画を続けており、新聞ジャーナリズムに期待される新たな役割を先駆けた功績は大きい」と評価した。

 優秀賞は、長崎新聞取材チームの「カネミ油症50年」と、宮崎日日新聞編集局取材班の「自分らしく、生きる 宮崎から考えるLGBT」の2件が選ばれた。特別賞は該当がなかった。第13回疋田桂一郎賞には、毎日新聞新潟支局の「『過労に倒れた難病の妹』を始めとする新潟県庁での過労死を巡る一連の報道」が選ばれた。


2紙は外患誘致罪 ブログ主宰者が告発状 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈13〉~ヘイトの増幅❶


インターネット上のブログ「余命三年時事日記」で、沖縄2紙に対して「外患誘致罪」の適用を求めていた書き込み(ブログの画面を画像化しました。複数の箇所を抜粋しています)

 2016年10月25日、ある人物が琉球新報社と沖縄タイムス社を刑事告発した。東京地検の検事正宛ての告発状によると、罪名は「外患誘致罪」。告発理由にはこう記されている。

 「沖縄での両社の報道姿勢は外国勢力と通謀し、国内の反日勢力を擁護する姿勢が鮮明となり、特に中国に対して武力行使を誘引するメッセージとなっている」


 外患誘致罪は刑法上最も重い罪で「外国と通謀して日本国に対し武力を行使させた者は、死刑に処する」と規定している。告発状は両社の社長を名指しで刑事告発し「死刑」にするよう、検察に求めていた。

 この告発状の被告発人には「基地周辺で反対行動をとる者および組織」も含まれている。そして、基地建設に反対する人々に対して「基地前の集団については外患誘致罪およびテロゲリラ、便衣兵(民間人に偽装して敵対行為をする軍人)として速やかに処罰するよう告発する」とも記している。基地建設に反対する住民の行動を「テロ」と仕立て上げ処罰を求めていた。

 ファクトチェック取材班は東京地検に、この告発状の取り扱いについて問い合わせた。返ってきた回答は「個別の事案にお答えできない」だった。告発から2年以上経過しているが、両社の社長が同罪で刑事訴追された事実はない。

 告発状を出したのは「余命三年時事日記」というインターネット上のブログを主宰している男性だ。06年に開設されたブログの主は「余命爺(じい)」を名乗り、病気で伏した個人が日常の出来事をつづったものとしている。初代のブログ主宰者が亡くなった後も、周囲にいた人が遺志を引き継いで続けているとされている。

 15日時点で、ブログで発信されている記事は2768件確認できる。「反日」「左翼」などの言葉が並び、中国や韓国、在日朝鮮人などを中傷する内容が数多く掲載されている。さらに、ブログの内容は書籍化もされている。ブログの記事を見ていると個人や行政機関、報道機関などを対象に処罰を求める告発状を検察などに送りつけていた。告発には、ブログ主宰者だけでなく、記事に呼応した読者も深く関わっている。

 沖縄2紙を刑事告発したという記事には、ブログ読者がこう書き込んでいた。

 「いよいよ始まりましたね、外患罪祭り。(中略)感無量です」

 「もう完全、朝鮮国は終わり。在日朝鮮人は日本人を怒らせすぎた。(中略)安倍首相と余命様の指揮司令等に従いますよ」

 余命三年時事日記という一つのブログは、読者を引き付け、ヘイト(憎悪)感情を増幅させていた。そして、そのヘイトは「告発状」として、実在社会へ向かった。さらに、このブログを発端とした弁護士への大量懲戒請求事件も引き起こされていくことになる。(ファクトチェック取材班・池田哲平)

弁護士に懲戒請求 ブログ呼び掛け 961通〈14〉~ヘイトの増幅❷

2019年1月17日

各地の弁護士に届いた懲戒請求書

 2017年11月から12月にかけて、沖縄弁護士会に県外から大量の文書が郵送されてきた。届いた文書は961通。送り主は北海道から沖縄まで、全国各地に住む個人だった。文書の内容は判を押したかのようにほぼ同じだった。

 「違法である朝鮮人学校補助金支給要求声明に賛同し、推進する行為は確信的犯罪行為である」


 当時の沖縄弁護士会会長と、同会に所属し朝鮮にルーツがある在日コリアンの白充(ぺクチュン)弁護士の懲戒を求める「懲戒請求書」だった。いずれもインターネット上のブログ「余命三年時事日記」の呼び掛けに応じた読者が署名し、郵送で送ったものだ。

 この懲戒請求書にある「朝鮮人学校補助金支給要求声明」とは、日本弁護士連合会(日弁連)などが出した声明を指す。文部科学省は16年、朝鮮学校への自治体の補助金支給について再考を促す通知を出した。これに対し、日弁連は声明を出し「政治的理由により補助金の支給を停止することは、朝鮮学校に通学する子どもたちの学習権の侵害につながる」と反対した。

 日弁連によると、弁護士への懲戒請求は弁護士法違反や、所属弁護士会の秩序や信用を害するなど「品位を失うべき非行」があった場合に、弁護士に懲戒を科すことができる。

 沖縄弁護士会に届いた「懲戒請求書」は日弁連の声明を引き合いに出し、沖縄弁護士会会長と白弁護士が声明に賛同するなどの「確信的犯罪行為」があったなどと記していた。だが沖縄弁護士会会長、白弁護士ともに「品位を失うべき非行」があったわけではない。日弁連の声明に関わってすらいなかった。にもかかわらず、制度を悪用されて懲戒請求を受けていた。

 発端のブログ「余命三年時事日記」は琉球新報など沖縄2紙や全国の報道機関、研究者を対象に検察などの捜査機関に「告発状」を出してきた経緯がある。

 通常、捜査機関は告発者の氏名を告発対象者に知らせることはないが、弁護士への懲戒請求制度は請求者の氏名、住所が請求を受けた弁護士に伝わる。懲戒を求める理由が事実無根の場合、請求者に損害賠償の支払いを命じた判例も出ている。だが、このブログでは「懲戒請求者の氏名は伏される」として広く賛同を呼び掛けていたのだ。

 ブログの内容を信じて懲戒請求を出した関東在住の男性が取材に答えた。男性によると、これまでもブログで募った捜査機関への告発状に賛同して出したが「不受理」などで返送されてきていたという。

 男性は「告発状は不受理などとして戻ってくることが繰り返しあった。今回(弁護士への懲戒請求)も同じようにやった。制度の趣旨がよく分からなかった」と語った。

 「余命三年時事日記」が発端となった弁護士への懲戒請求は、17年から全国各地の弁護士会や在日コリアンの弁護士に対して大量に出された。例年、懲戒請求は4千件以下だが、17年は13万件を超えている。一つのブログが仕掛けた弁護士への攻撃は読者らの間で爆発的に広がっていった。そして「趣旨を分からない」まま懲戒請求を出したブログ読者自身にツケが回ってくることになる。

ブログ読者「洗脳された」 発信拠点 気配なく 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈15〉~ヘイトの増幅❸2019年1月18日

今月9日午後、東京都北部に位置する巨大な団地の最上階にある一室を訪ねた。呼び鈴を鳴らしても応答がない。部屋の前でしばらく待っていると、男性が外廊下をこちらに向かって歩いてきた。そして部屋の前で止まり、鍵でドアを開けた。「(住人は)いないよ」。男性が答えた。

 取材班が訪ねたのはブログ「余命三年時事日記」の主宰者の部屋だ。男性が鍵を開けると部屋の様子が見えた。玄関先にはいくつもの郵便物が転がっている。部屋の奥は暗く、中に他の人がいる気配はない。

 部屋を開けた男性はブログ主宰者の知人だと語った。「しばらく帰ってきていないのか」と尋ねると「頼まれて部屋を片付けにきているだけだから」と言い残し、散らばった郵便物を集め、鍵をかけると足早に立ち去っていった。

 ブログ「余命三年時事日記」は、沖縄2紙などへの「刑事告発状」や、弁護士に対する懲戒請求が大量に出される発端となった。ブログの主宰者は、この部屋からヘイト(憎悪)表現を含む記事を発信していたとみられる。

 取材班はブログ主宰者が運営している会社の登記簿などから住所を把握した。さらに、関係先から携帯電話の番号も知り得た。昨年12月中旬以降に複数回電話を掛けたところ、呼び出し音は鳴るが一度も応答することはなかった。

 取材班はブログ主宰者がなぜ捜査機関への「告発状」を何度も出したのか、弁護士への大量懲戒請求に踏み切った真意などついて、直接話を聞くために部屋を訪れていたのだ。

 部屋の表札はブログ主宰者の氏名と一致している。しかし、事前に入手していた写真で確認したが、部屋のドアを開けた男性はブログ主宰者とは別人のようだった。結局、ブログ主宰者にたどり着くことはできなかった。

 昨年夏以降、不当な懲戒請求を受けた一部の弁護士らが懲戒請求者らに損害賠償を求めて提訴する動きが出てきている。ブログを信じて懲戒請求に踏み切った請求者らは、法廷の場で裁かれることになる。

 大阪の毎日放送は昨年末に放送したドキュメンタリー番組の中で、ブログ主宰者に迫り、電話で取材している。番組でブログ主宰者はこう語った。

 「実際に書いているものというのは、初期のものなんか、単なるコピペですからね。本人の体験はほとんど入っていない」

 「コピペ」とは「コピーアンドペースト」の略語だ。ブログ主宰者はどこかの文章をコピーし、貼り付けることでブログの記事を書いていたと明らかにしたのだ。


 取材班は懲戒請求を受けた弁護士らに取材を重ねていった。そして、実際に懲戒請求を出したブログ読者らは「洗脳されていた」「社会を変えられるという高揚感があった」などと語っていることが分かった。読者らはブログで呼び掛けられた行動が世の中の役に立っていると信じ、行動していた。 (ファクトチェック取材班)

攻撃対象 次第に拡大 懲戒請求、大半は50代超 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈16〉~ヘイトの増幅❹2019年1月20日

ブログ「余命三年時事日記」が発端となり、弁護士への懲戒請求を出した県内の請求者が住所として指定していた県営住宅=2017年11月20日、本島中部

 「偏った思想に取り付かれ、内容を吟味せずに加担してしまった」

 「マインドコントロールされ、集団ヒステリー状態になってしまった」

 これらはブログ「余命三年時事日記」を読み、弁護士への懲戒請求を出した人が宛てた手紙の一文だ。懲戒請求を受けた一部の弁護士らが請求者を提訴する動きが始まっている。提訴が明らかになった後、懲戒請求を受けた弁護士に謝罪の手紙が続々と届いている。


 懲戒請求を受けた東京弁護士会の佐々木亮弁護士、北周士弁護士は懲戒請求者に対して、損害賠償を求める訴訟を起こしている。和解にも応じており、10日現在で31人が和解を申し込んできたという。

 懲戒請求者はどのような人物なのか。両弁護士によると、和解を申し込んだ懲戒請求者の多くは50代後半から60代で若くても40代だった。男性が6割、女性が4割程度で性差での違いはほぼなかったという。さらに、一戸建てとみられる住所が多く、氏名でたどると医者や経営者、公務員なども含まれていたという。

 取材を進めていくと、ブログを読んで懲戒請求を出した請求者は、県内からも少なくても3人いることが分かった。取材班は昨年11月中旬から懲戒請求者に接触を試みているが、1月中旬までに取材することはできていない。

 そのうち、一人の男性が住所としていたのは本島中部の県営住宅の一室だった。昨年11月20日夜、その住宅を訪ねると、全ての部屋の電気は消え、郵便受けには封がしてあり、人が住んでいる気配はなかった。後になって県に確認したところ、この県営住宅は建て替えが決まり、入居者はすでに退去していた。新たな住所に転送されることを期待し、郵送で手紙を出したが「あて所に尋ねあたりません」として戻ってきた。

 懲戒請求を受けた東京弁護士会の佐々木弁護士、北弁護士は共に在日コリアンの弁護士でもなく、懲戒請求のきっかけと言われる日弁連の声明にもかかわっていなかった。

 ただ、佐々木弁護士は「余命三年時事日記」を書籍化した出版社の労働問題に関する訴訟で、労働者側の代理人を担当した経緯があった。このことが懲戒請求を受けるきっかけになったとみられる。

 佐々木弁護士が身に覚えのない懲戒請求が届いたことをツイッター(短文投稿サイト)で発信したところ、北弁護士が佐々木弁護士を擁護する書き込みをした。その後、北弁護士も懲戒請求の標的となった。

 佐々木弁護士は「根底にあるのは差別だと思う。ネットという媒体を通して、狭いところで読者が共感し合い、民族差別があおり立てた。そして、次々とターゲットを広げていった」と分析する。一つのブログで在日朝鮮人へのヘイト(憎悪)感情が増幅され、徐々に攻撃対象を広げていった構図が浮かび上がった。

 請求者への訴訟について、北弁護士は「放っておくと今後もエスカレートしていく可能性がある。闘える状況の時に歯止めを効かせていきたい」と語った。

 (ファクトチェック取材班・池田哲平)

「国策」が生む差別 問題とどう向き合うか 連載「沖縄フェイクを追う ネットに潜む闇」〈17〉〜ヘイトの増幅? 01月21日

「会員弁護士のバックグラウンドだけで懲戒を請求した。個人への攻撃だ。強く非難しなければならない」 2018年7月25日、記者会見を開いた沖縄弁護士会の天方徹会長は、沖縄弁護士会に大量の懲戒請求書が送られてきたことを明らかにした。そして懲戒請求をした人々に対して「ヘイトスピーチと同種の行為だ」と強く非難した。


 17年11月と12月、沖縄弁護士会に送られた懲戒請求書は961件に上った。いずれもブログ「余命三年時事日記」を見た読者から送られたものだ。懲戒対象は当時の弁護士会会長と、同会に所属し、朝鮮にルーツがある在日コリアンの白充(ペクチュン)弁護士だった。

 大量の懲戒請求は全国各地の弁護士会にも送付されている。中でも、沖縄弁護士会は在日コリアンの白氏らが対象になっている点などを挙げ、声明で「差別的言論」だとしている。全国の弁護士会が出した声明よりも踏み込み、請求者らに抗議した。大量の懲戒請求が沖縄弁護士会に届いて1年経た昨年12月初旬、天方氏が取材に応えた。

 「自己満足のおかげで傷ついた人がいるという結果は重大だ。懲戒請求制度を不当に利用することは弁護士自治すら危うくする」

 天方氏は懲戒請求制度を利用して、特定の弁護士を攻撃した請求者の行動は日本の弁護士自治への重大な挑戦だとの認識だ。

 他国では弁護士の管理、監督に国が関与している所もある。だが、日本では弁護士自治が認められ、弁護士会が各弁護士を律し、懲戒を科すことができる制度になっている。そのため、弁護士は国などの権力と対峙(たいじ)することができている。天方氏は弁護士自治の根幹に国民が誰でも請求することができる懲戒請求制度があるとの見解を示す。

 白氏は自身が通っていた朝鮮人学校の近くのガードレールに「朝鮮人ばか」「死ね」と書かれていたことを今でも覚えている。差別は幼少期から現在まで繰り返し受けてきた被害だ。

 今回、大量に懲戒請求が送りつけられた発端は、国が朝鮮人学校に対する自治体の補助金の再考を求める通知を出したことにある。通知に対して日本弁護士連合会が会長声明で反対し、弁護士が懲戒請求の対象となっていった。差別的だと批判されている国の政策が匿名性のあるネットを介して、個人の差別意識を増幅させた形になっている。


 白氏は普天間爆音訴訟や辺野古アセス違法確認訴訟などの代理人を務めていた。国家の政策が個人の差別意識に結び付いた在日朝鮮人への差別問題は沖縄に差別が向かう構造とも似ていると感じている。白氏は請求者だけではなく、それ以外の多くの人に考えてほしい問題だと思っている。 「(請求者を)ネットの影響を受けた変なやつらだと突き放して、問題を終わらせてほしくない。自分はこの人たち(請求者)と同じような偏見を誰かに向けていないか。その視点を持つことが問題の本質だ」

 懲戒請求を受けた全国各地の弁護士が請求者に対して損害賠償を起こす動きもある。だが、請求を受けた当事者の一人でもある沖縄弁護士会所属の白氏は、懲戒請求者に対して訴訟を起こすことは現時点では考えていない。差別をなくすには請求者への追及よりも全ての人への問い掛けこそ大切だと思っているからだ。

 この原稿を書いていた20日、新たな情報が飛び込んだ。ブログ「余命三年時事日記」がこの日の午前中から見ることができなくなっている。「表示できませんでした」というメッセージだけが画面に表示されている。12年ごろに開設されたとみられるこのブログは、公開停止もしくは閉鎖されたようだ。

 (ファクトチェック取材班・池田哲平) (おわり)


連載「沖縄フェイクを追う」 ファクトチェック取材班座談会

2019年1月23日

琉球新報ファクトチェック取材班の池田哲平記者(左端)、安富智希記者(右端)、松永勝利報道本部長(左から2人目)、宮城久緒デジタル編集担当局付部長(同3人目)。パソコンの画面は取材班の滝本匠東京報道部長=21日午後、琉球新報編集局の取材部屋

 琉球新報ファクトチェック取材班は今年1月1日から同21日まで、「沖縄フェイクを追う~ネットに潜む闇」を連載した。昨年11月に取材班を結成してからインターネット上でまん延している沖縄に関するフェイク(偽)情報やヘイト(憎悪)表現の発信者を追った。取材を通して感じたことを取材班が話し合った。

 ―沖縄フェイクを追った感想は。

 池田 当初は何から手を付けていいか分からなかった。ネットに詳しくなく手探りだった。関係者を取材するうちに、サイトの運営者などの情報が少しずつ分かってきた。偽情報が流れた際には周囲から丹念に取材していくことが必要だと感じた。

 安富 フェイク拡散の構造と特徴を知りたかった。フェイクは「ネタ」と言い換えられる。多くの人に受けるネタを書けば、読者が増えて広告収入につながる。記事や投稿に「いいね」が多く付けば承認欲求が満たされる。ネタの評価基準は面白いか、そうでないかで真実は問われない。

 滝本 ファクトチェックは調査報道だとの認識を強くした。取材手法自体は新しいものではない。裏付けとなる事実を追求し言説を検証する。自分たちで事実を調べて自分たちの責任で事実を記事にしていく。まさに記者活動の醍醐味(だいごみ)と言える作業だった。

 ―中傷や攻撃的な言説に触れどう感じたか。

 宮城 沖縄県知事選挙期間中、知事選に関しツイッターで発信された投稿を分析した。告示前後の数日は約20万件の投稿を半日以上かけて目を通した。悪口ばかりで気がめいったが、読み終えた時に傾向をつかむことができるのではないかと眠気を我慢して読み通した。ほぼ玉城デニー氏への中傷だったことにがくぜんとした。

 安富 事件事故の被害者をあざ笑う醜悪な投稿を多く読んだ。心が汚れるのを感じた。投稿者はフェイクを信じる信じないというよりは楽しんでいるという感じだった。歴史などを知っているかどうかだけの問題ではない気がする。

 ―フェイクやヘイトの発信者を追った。

 池田 ブログ「余命三年時事日記」を読み弁護士に懲戒請求を出した複数人を尋ね、東京近隣を歩いた。不在者には手紙をポストに投函(とうかん)したところ、メールが送られてきた。「非常に気分を害している」「お答えする義務はない」などとして取材には応じてもらえなかった。

 千葉県内の懲戒請求者の家を訪ねた時、部屋の中から人の声がした。呼び鈴を鳴らすと音が聞こえなくなり、応答もしてもらえなかった。他の請求者にも取材の趣旨などを書いた手紙を送ったが返信はなかった。取材を受けてくれた人は1人だけ。しかも玄関先で短時間だけだった。

 滝本 フェイクをつくるサイトの制作者を追うために都内の登録住所をたどった。目的の集合住宅の入り口には居住者の名簿が張り出されていた。部屋は400近くあり、記載されていた名前とサイトに登録された名前を照合した。だが登録された名前はなかった。

 別のサイトの公開情報にあった制作者の住居も捜したが住んでいなかった。住所確認のため、国立国会図書館で数年分電話帳をめくった。調査を終わろうとした時、電話番号を見つけた。静かな図書館でガッツポーズを決めていた。電話はつながらず手がかりはついえたが、一つ一つつぶす作業でしか調査報道は成り立たないのだと思う。

 ―フェイクやヘイトの発信者はどう映ったか。

 池田 攻撃的な表現を含んだ記事を発信したサイト「ネットギーク」の運営者の携帯電話に何度かかけたが応答はなかった。当初は呼び出し音が鳴ったが12月中旬以降、「お出になりません」とのメッセージが流れるだけになった。着信拒否などで意図的に避けたのかもしれない。さらに12月中旬以降、琉球新報社からネットギークのサイトが閲覧できなくなった。ネットギーク側から遮断された可能性があることが分かった。運営者は表に出ることを徹底的に避けていた。

 安富 ヘイトやフェイクを流す人は匿名が多い。匿名はネットの特徴なので一概に悪いと思わないが、言いっ放しで理解しようとしないことに問題点がある。そこにコミュニケーションは生まれず、被害者の傷がえぐられるだけだ。

 ―こだわったことは。

 宮城 取材した経緯も丸ごと書くこと。沖縄フェイクの発信者を追うのが目的だが難しい取材になると予想できた。発信者にたどりつけなくても取材の経緯を記すことで、ネットでフェイクやヘイト(憎悪)を発信する人のえたいの知れない、闇の深さが浮き彫りになると思った。執筆記者の名前を記すこともこだわったことだ。不安はあったが名前や素性を隠して攻撃や中傷する人々を批判したり、疑問を呈したりする側の私たちが匿名ではいけないと思った。

 池田 余命三年時事日記の読者の中には自分の情報が相手には知られないと思って、弁護士に懲戒請求を送りつけた人もいたと思う。SNSなどで意見の発信が容易になった分、中傷を発信した先に生身の人間がいることが見えなくなってしまっている。

 ネットギークの運営者の連絡先を知った後、自分の氏名、連絡先を記してメールを送った。運営者は正体を隠して個人攻撃をしていた。個人情報を相手に伝えたことでネット上で攻撃を受けることも想定された。だが、記事の執筆には責任が伴う。取材する側の身分を明らかにした上でサイト運営者を正面から取材し、情報を発信する責任を厳しく問いたいと考えた。

 安富 取材中は常に心配だった。記事で自分の名前が出るたびに自分も「ネタ」になると思った。でも、取材を通して分かったのは発信者自身、強烈な思想信条があるわけではなさそうだということだ。差別をネタに楽しんでいるだけの人。パソコンの画面の奥にいるえたいの知れない人物だから怖かったが分かってしまうと何でもない。向こうもおびえていたと思う。現に取材も受けなかった。ただ、その影響を受けた読者が何をするか分からない怖さはある。


 ―反響は。

 滝本 昨年の県知事選で実施したファクトチェックは、全国の現場の記者たちから手法や課題について問い合わせを多く受けた。これほど「やりたい」と思っている記者がいることに驚いた。自分たちも、取り組みはどうしたらいいのかという実践的な問いがほとんどだった。本紙は以前から沖縄フェイクにさらされて、それをただす報道を続けてきた素地があったからこそ、自然にファクトチェックができたのかもしれない。

 宮城 知事選で取り組んだツイッター分析について、東京でのセミナーで報告した。席は埋まり関心の高さをうかがわせた。「選挙期間中に行うことにためらいはなかったか」「どのような体制で行ったのか」など数多くの質問を受けた。「本社も取り組みたい」と言う人も多く心強かった。ネットの話なので横文字や特殊な用語が多い。だが、ネットに普段接する機会が少ない読者にも理解してもらえるように分かりやすく書くことを心掛けた。社の先輩から「分かりやすかった」と声を掛けてもらったり、推理小説を読んでいるみたいだったと感想をもらったりした時はうれしかった。

 安富 取材中、いろいろな人を傷つけたかもしれない。緑ヶ丘保育園の関係者には彼らを中傷する記事を読んでもらったし、大手まとめサイトの保守速報から攻撃を受けた、大阪府在住の在日朝鮮人女性の李信恵(リシネ)さんには、つらい体験を思い出させてしまった。だから責任を持って記事を書かなければならなかった。僕が傷をえぐる側になる可能性もある。そういう緊張感があった。その中で、李さんから別れ際に「あなたに会えて良かった」と言われたのには本当に救われた。


 ―フェイクやヘイトはなくすことができるか。

 池田 弁護士懲戒請求の問題は根底に差別がある。裁判を起こされ、和解を名乗り出た懲戒請求者は弁護士に対して「洗脳されていた」などと謝罪を手紙に書いた。だが、請求者らの行動はブログによる「洗脳」だけが問題だとは思えない。懲戒請求者自身が内面と向き合わないと、今後も同じように自身の差別的な意見や衝動が表に出るのではないか。

 安富 フェイクやヘイトはなくならないと思う。これまでもあったし、これからもあるだろう。でも影響力を持たせてはならない。フェイクの構造を知ることで影響力をそぐことができないかと取り組んだ連載だ。少しでもその目標が実現できればうれしい。

 滝本 本紙のファクトチェックが注目されることで、取り組みが全国的に広がることを期待している。4月に統一地方選があり、7月には参院選が控える。憲法改正の国民投票の問題もある。投票への判断が、誤った情報や曲げられた情報でゆがんだものになっては、この国の行方すら危うくしかねない。


【記者座談会参加者】社会部・池田哲平、中部報道部・安富智希、東京報道部・滝本匠、デジタル編集担当・宮城久緒


統括デスクから

 ファクトチェック取材班が発足したのは昨年11月初旬だった。ネット空間に広がる暗闇から、沖縄を標的に次々と撃ち込まれる偽と憎悪にまみれた言説を誰が流しているのか。それが知りたくて、取材班が発信源をたどる取り組みを始めた。

 若い2人の記者が東京などの県外に何度か足を運び、運営者らの所在を突き止める試みを繰り返した。取材班5人でつくったLINEグループは、現地に出向いた記者からの報告やデスクの取材指示などで、書き込みが増え続けた。

 発信者の何人かの氏名、拠点住所、携帯電話の番号、メールアドレスも判明し、電話をかけたり、メールを送ったり、拠点に足を運んだりもした。しかし発信者本人には一人も会うことができなかった。ネットの闇の深淵(しんえん)をのぞけないいら立ちが募った。連載記事は私たちがたどりつけなかったことも含め、取材の軌跡をありのまま読者に伝えようと決めた。

 記事ではネットに縁がない高齢者にも理解できるよう、専門用語をかみ砕いて文字にするよう心掛けた。このためネットに慣れ親しむ記者たちが書き上げた原稿は、最初の読者でもあるデスクの私による追記を指示するボールペンの文字で赤く染まった。

 ファクトチェックの取り組みは始まったばかりだ。連載はひとまず終えたが、これからも追跡と監視を続けることになる。

 (松永勝利報道本部長)